『人生という思い出づくり』 〜大峯奥駈道 6日目(最終日)〜

【感謝】 

最終日の朝。
5泊6日の旅の最後の拠点となった行仙宿のフロア全体と玄関を、心を込めて丁寧に掃き掃除する。

お世話になった空間を清め、お堂にて無事の完遂を報告するお礼参りをした。最後に小屋へ向かって深く一礼し、熊野市駅へと続く下山の途についた。

 

【最後まで魅せる大峯と、祈りの道】 

すでに過酷な登り下りは終えているが、大峯の自然は下山中も最後まで、幻想的で美しい風景を私に魅せてくれた。 清流の澄んだせせらぎをすぐ側に感じながら、ひたすらに麓の下北山村へと下っていく。
 

途中、修験の歴史を刻む実利行者尊(じつりぎょうじゃそん)や、「うい山の天王」へ立ち寄り、静かに手を合わせた。 この過酷で美しい山行を最後まで見守ってくれたことへの、心からの感謝を伝える。

張り詰めていた心と身体を解きほぐしていくような、クールダウンの道だった。

 

【下界への帰還】 

熊野市駅へ向かうバスが出る「七色」のバス停に到着し、着替えを済ませる。

バスに揺られて熊野市駅へと着き、出発前から徹底した食事管理をしていただけに、久々に「下界の食事」を口にした時には、この6日間の旅が本当に終わったのだという安堵と実感が、じんわりと身体中に広がっていった。

帰路の電車に揺られながら、窓の外を流れる景色を見つめる。

今回の大峯奥駈道も、私にとって決して色褪せることのない「かけがえのない時間」であった。

誰かに成果を残して誇示したいわけでもなく、ひたすらスピードを追い求めているわけでもない。 ただただ、自分の内なる情熱を燃やし、その時々のベストを尽くし、自分自身の限界や新しい価値観へ、常に「挑戦する自分」であり続けたい。

人生とは、究極のところ「思い出づくり」なのだと思う。

この大峯で刻んだ彩り豊かな記憶は、これからも私の音楽と生き方を、より深く、力強く支えてくれるはずだ。

___________

【DAY6 記録】

行動時間: 2時間52分
移動距離: 19.16km
累積標高: 上昇 118m / 下降 1042m
消費カロリー: 1307kcal

___________

 

※おわりに
___________

【大峯が導いた音楽と生き方】〜大峯奥駈道 150kmの軌跡〜

5泊6日、総距離150km、累積標高10,000m。
今春の大峯奥駈道の旅が、無事に幕を閉じました。

今回の最大のミッションは、手負いだった両足の靭帯を守り抜き、「無傷で生還する」ことでした。

そのために、スピードを手放し、トレッキングポールを盾として使い、下りの衝撃を避けるための変則ルートまで組み込みました。 生体力学的な検証とダメージコントロールを徹底した結果、靭帯の痛みが暴走することは一度もなく、完璧に脚を守り切ることができました。まさに『準備が9割』を証明する山行となりました。

さらに不思議なことに、右足の腸脛靭帯炎の痛みは、すべての行程が終わる頃には完全に消えていました。 生体力学的な理由があったとしても、私はこれを山の神々のおかげ様だと、心から感謝したいと思います。

この旅で得た最大の収穫は、縦走の完遂という物理的な結果だけではありませんでした。

臨機応変に、その時々に適応する「水のような在り方」を実体験として学ぶことでもありました。

暗闇ではなく、太陽の光の下でピークを踏みしめ、大自然とじっくり対話する「ファストハイク」というスタイル。 それは、モノクロだった私の縦走の世界に、これまで気づかなかった「彩り」を与えてくれました。

激しい風雨や、一睡もできない極寒の夜。鎖場での深い没入感。そして、人の温もり。大峯の険しい自然の中に身を置き、余計なものを削ぎ落としていくと、不思議なほどに『音楽と生き方』がより明確に、そしてシンプルになっていくのを感じました。

この極限の道のりは、私にとってひとつの壮大な音楽そのものでした。そして、人生という「思い出づくり」の、最も美しい1ページとなりました。

この体験と気付きが、未来の私の音楽への確かな礎となると確信しています。

 

今回の経験は、今年の夏山へとさらに繋がっていきます。

次はアルプスの壮大な山々で、また新しい景色と自分に出会うための準備を進めていこうと思います。

長きにわたる大峯奥駈道の備忘録に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。 

大峯の山々と、応援し、見守ってくださった皆様に、心からの感謝を。

SHIBATEN