『凍てつく霧氷と、試される適応力』〜大峯奥駈道 3日目〜

【氷点下から灼熱へ。大峯の洗礼】 

外ではものすごい風が吹き荒れる音が響いている。
意を決して布団から抜け出し、出発の支度を整えた。

靴を履いていざ外へ出てみると、風は肌を刺すように冷たく、目の前に張られていた他の登山者のテントはカチカチに凍りついていた。 

関西最高峰である八経ヶ岳(はっきょうがたけ)を越える頃には、あたり一面に美しい霧氷(むひょう)が広がっていた。

あまりの寒さに、自然とペースが上がる。
弥山小屋で満タンにした2Lの水も、この寒さの中ではほとんど口にする必要がないほどだった。

しかし、標高を下げて釈迦ヶ岳へと向かうにつれて、気温は一気に上昇していく。南奥駈道に入る頃には、太陽の光がジリジリと容赦なく身体を火照らせるようになっていた。 

氷点下の世界から灼熱への急激な変化。
これもまた、大峯の洗礼である。


【こだわりを手放す実験:行動食としてのパン】 

今日の行動食は、弥山小屋にかろうじて売れ残っていたチョコクリームパンとディニッシュミルクパン。そして、小屋でお願いしていたお弁当である。

普段のトレイルランニングであれば、脂質の高いパンを行動食に選ぶことはまずない。しかし今回の旅のテーマは、極限までこだわってきた「理論」を手放し、可能なかぎり、現場にあるもので臨機応変に適応することだ。 

これはある意味で、自分自身の適応力を試す実験でもあった。


【修験道の真髄と、感謝の道のり】 



途中の持経宿(無人避難小屋)でザックを下ろし、しばしの休憩をとる。これまでの「1泊2日」のスタイルであれば、吉野からスタートして約15時間(60km地点)、ここが1泊目の宿だった場所だ。 

ここは管理されている「新宮山彦ぐるーぷ」の方々がいつも綺麗に保ってくださっている、本当にありがたいオアシスである。(行仙宿・平治宿も同様に)

今回はお水だけをいただき、感謝とともに先へと歩みを進めた。

 

【奥駈道の中〜終盤戦】

この道は、事前に標高マップを見ただけでは到底想像もつかないほど、細かなアップダウンが果てしなく連続する。
岩場、鎖場、息の切れる激登りに、足にくる激下り。

日本アルプスのどの山々よりもハードな山行になるのではないかと感じる瞬間が何度もある。 

だからこそ、ここは単なる登山道ではなく『修験道』なのだということを、全身で痛感する。


【重い錘の恩恵と、深い眠り】 

弥山小屋を出発してから約9時間。
ようやく3日目の宿である行仙宿(無人避難小屋)に到着した。

実は、弥山小屋でお願いしていたあのお弁当は、結局行動中には手をつけなかった。背中で揺れるお弁当は、疲労が溜まるにつれて「食べないならただの重い錘(おもり)だ」と感じることもあった。 

しかし、行仙宿に着いて1回目の夕食としてその蓋を開け、口に運んだ瞬間、手作りの味が疲れ切った身体の隅々にまで深く沁み渡った。

シンプルなお弁当が、重い思いをして背負ってきた甲斐があったと、心から思えるほどの美味しさだった。

その後、さらに温かいフリーズドライ米も食べて胃を満たし、明日の準備をして早々に布団へ潜り込む。

標高1000mとはいえ、夜の行仙宿は底冷えする寒さだった。 

しかし、前日の一睡もできなかった夜とは違い、連日の過酷な疲労と満たされたお腹のおかげで、この日は深い眠りにつくことができた。

いよいよ旅は後半戦、4日目へと続いていく。

 

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【DAY3 記録】

行動時間: 8時間50分
移動距離: 29.40km
累積標高: 上昇 2449m / 下降 3253m
消費カロリー: 3421kcal