『大峯が導く音楽と生き方』 〜大峯奥駈道 完走報告〜

今春の大峯奥駈道、無事に全行程を終えて下山しました。
5泊6日、総距離150km、累積標高10,000mの道のりでした。

今回は、これまでの「1泊2日(行動時間 約24時間)」で一気に駆け抜けるような縦走スタイルではなく、大自然とじっくり対話しながら進む「ファストハイク」としての挑戦でした。 

タイムを追い求めず、これまでに未踏だったピークを踏みに行ったり、今後の調査のためにあえて寄り道をしたりと、変則的なルートを描きながら、大峯の奥深さをたっぷりと味わい尽くす旅となりました。


【両足の靭帯について】

一番の懸念だった、両足の痛めた靭帯について。
これに関しては、予定通り「トレッキングポールを使い、徹底してスピードを落とす」という物理的なダメージコントロールを最後まで貫きました。

その結果、靭帯の痛みが暴走することは一度もなく、完全に脚を守り切ることができました。

身体的な疲労は底知れませんが、一番の目標であった「無傷で生還する」というミッションを達成できたことに、静かな安堵を感じています。 


【準備が9割】

今回の山行は、出発前に積み重ねた生体力学的な検証や試行錯誤がそのまま結果に直結した、まさに『準備が9割』という言葉を体現するような6日間でした。


音楽と生き方】

山の中を歩き続ける日々は、ただひたすらに夢中で、完全に没頭できる時間です。
大峯の深く険しい自然の中に身を置き、自分自身の限界と向き合いながら余計なものを削ぎ落としていくと、不思議なほどに『音楽と生き方』がより明確に、そしてシンプルになっていきます。

まるで大峯の神々が、これから進むべき方向を静かに導いてくれているような、そんな研ぎ澄まされた感覚がありました。

出発前に思い描いていた通り、この極限の道のりは、私にとってひとつの壮大な音楽そのものでした。

道中の細かな出来事や、日々の記録については、今後簡単な備忘録として少しずつ書き残していこうと思います。

まずは、無事の帰還報告まで。
大峯の山々と、見守ってくださった皆様に、心からの感謝を。

『上善如水』〜奥駈への道 第十回〜

いよいよ明日、大峯奥駈道へ出発する。

これまで、装備の徹底的な軽量化から、食事管理、怪我をカバーするための生体力学的な検証まで、自分なりに考えうる限りの準備をしてきた。

この過酷な修験道を踏破するための試行錯誤を、ひたすらに積み重ねてきた日々だった。

けれど、大峯という深く険しい自然の中で、天候や気温、小屋の状況、そして刻々と変わる自分自身の体調を100%コントロールすることなど、絶対に不可能だ。

準備というものは、本番で予定通りに事を進めるためのものではなく、想定外のトラブルや「不完全な状況」に直面した時に発揮する、『適応力』を育んでおくものだと、私は思う。

リスクを受け入れ、適応しながら前へ進む。

古代中国の思想家、老子の言葉に「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」という教えがある。

最高の在り方とは、水のように自らの形を固定せず、環境に合わせて柔軟に変化し、決して止まることなく流れ続けること。

これまで「選択と集中」で練り上げてきた計画と実践。

だが、ここから先は「理論」という硬い氷を、自らの手で溶かしていく。そして、大峯の起伏や自分自身の痛みに合わせて、どこまでも柔軟に適応する『水』になる。

この極限の道のりを、ひとつの壮大な音楽のように、最後まで奏で切れるよう、全力を尽くしてきます。

いざ、大峯奥駈道へ!